テレビ番組のインタビューに登場したスターバックスの創業者ハワード・シュルツが興味深いことを語っていた。ビジネスを成功させるのに、何もまったく新しい案や商品を考え出す必要はないと言うのだ。
シュルツは元コーヒーメイカーのセールスマン。シアトルにあるコーヒー豆店スターバックスに営業に出向き、店の雰囲気に人目惚れする。しばらく同社で働いた後、コーヒーショップを開くアイデアを社長に提案するが、「うちは飲食業はやらない」と却下される。
シュルツはスターバックスを退社後、自分でコーヒーショップ「イル・ジオルナーレ」を開店する。一方、スターバックスは1987年までに6店を構えており、ちょうどこの頃にシュルツはスターバックス・チェーンを3.8ミリオン(約4億4210万円)で買収する機会に恵まれる。
当時はアメリカでコーヒー豆の売上がガクンと落ちた時期。世の中は「より早く、より多く」な風潮で一杯の美味コーヒーを腰掛けてゆっくりと飲む時代ではなかった。しかし、シュルツはコーヒーの売れないこの時期に、一杯3ドルのコーヒーを売り始めた。また、最もありきたりで平凡な飲み物と捉えられていたコーヒーを紙コップに入れて販売した。
「私たちは人と人を結びつける人間らしさを大切にしたビジネスを行っています。 自宅と仕事場の間に第三の空間を提供し、一つのコミュニティーを作ったのです。私たちのアプローチはこの30年間、ユニークでこれまでとは違ったものでした。これまでよりも良いものだと言っているのではなく、ただ違ったものでした」
現在、スターバックスの来客数は週4千万人。1万1000店を37の国にオープンした。店舗は増え続け、現在一日に5店を開店させているペースで、年間売上は290億ドル(約3兆3738億円)。かつては「死んだ」と言われたコーヒー業界を完璧に蘇らせている。また、退屈で平凡と言われていたコーヒーを様々なブレンドを作り、がらりとおしゃれな飲み物へと変身させた。
「Not better, just different」。何かまったく新しいものを考え出すのではなく、シュルツはすでにあるものを作り直すアイデアでここまでの成功を成し遂げている。