マンハッタンの中心部のイーストサイドとウエストサイドを結ぶ地下鉄シャトル線は車内もプラットフォームも絶好の広告キャンペーンの場だ。
現在、地下鉄車内の全席はギョッとするほどのビビッドな紫一色。車内全面を飾っているのは、スポーツケーブルチャンネル「MSG」の特別番組の広告で、歴代のスポーツヒーローたちが顔を揃えている。
シャトル線、42丁目のタイムズスクエア駅プラットフォームには、ショッピングモール「ターゲット」のロゴがまるで雪が降っているかのように散りばめられている。ターゲットはファッションデザイナーのアイザック・ミズラヒをディレクターに向かえ、白地に赤の二重丸のロゴを有効に使って、アーバンでカジュアルなライフスタイルを提案することに成功している。
ターゲットの今回のキャンペーンは雪のようにロゴを降らせ、「ホリデーシーズン」が近づいているとアピールすることで、買い物意欲、ギフト購買意欲をくすぐってくる。
ロゴの有効利用について、興味深い話を聞いた。フランスの神経学者が「単語失明症」の60歳男性を診断したところ、男性は文字を見て書き写すことはできるものの、いちばんやさしいブロック字体でも、自分からは書けなかった。男性はある朝起きると、突然何も読めなくなっていたという。
男性が亡くなった後、脳を調べると、左脳の視覚皮質と脳梁の後部に損傷があった。視覚皮質が破壊されたため、左脳は必然的には見えなかったが、患者の言語意識は依然として「見る」ことができた。つまり右脳だけで文字を見ていたことになる。
男性が自ら文字を書くことができなかったのは、ブロック字体を文字として理解できなくなっていたためだった。加工ずみの特殊な「情報」が、脳梁の特定部分を通って左右脳間を報復しているのだという。
単純なシンボルが品物とか顔として認識されるのは、実に右脳のおかげ。群集の中から一人の顔を瞬時に見分けるように、右脳に訴求した商標なら、近づいてレッテルを読むまでもなく、たくさんある類似品から当該商標やロゴタイプを瞬時に認知できる。ある商品の購入を衝動的に決めるのは、右脳による無意識認知にもとづいている可能性が高い。
一旦、ブランドのイメージをライフスタイルなどに絡めて消費者に浸透させた後は、ターゲットのように、あとはロゴを有効に使うことによって、様々な広告展開が可能になる。商品を実際に見なくても、ちょっと上質なギフトが見つかるような期待感を持たせてくれる。